有閑多事 三蔵 2





今日も今日とて 妖怪の襲撃に5人は ジープを降りて 応戦していた。

場所は 険しい山道の途中で、全員 足場の悪さに 辟易しながらの戦いだった。

それは とて同じ事で 足元に充分気を配っていたつもりだったのだが、

思ったよりも 見ていなかったらしい。

追い詰められた上に 攻撃を掛けられて 思わず足を引いたら

そこには地面が無かった。

「三蔵!」思わず愛しい人の名を呼んでしまう。

崖下は 流れの速い谷川になっている。

しまった!と思ったけれど には落ちていく身体を止める事は出来なかった。





の上げた 切羽詰った声に 全員が振り返った。

その目に映ったのは 谷に落ちてゆく の身体だった。

「「「「!!」」」」

そう 言ってはみたものの すでに 遅いことはわかっている。

一番近くにいた 三蔵は、「ここを片付けたら、下流を捜せ!」

そう言うと ためらいも無くの後を追って 谷川へと飛び込んだ。

「三蔵! ちぇ、ずり〜よ〜。俺がを助けに行こうと 思ったのに〜。」

悟空は 妖怪に一撃を加えながら 不満そうに 言った。

「お子様には 無理だって、ナイト役は いい男の俺様がぴったり。」

悟浄は くわえ煙草のままでにやりと笑いながら 悟空を からかった。

「2人とも のんびり話をしている場合じゃないですよ。

ここを早く 片付けて迎えに行かないと!

三蔵はともかく は怪我をして落ちたのかもしれないんですから、急ぎますよ。」

八戒の言葉に 2人はあわてて 残り少なくなった妖怪を 片付け始めた。




谷川に落ちた と三蔵は 流されるままに 泳いでいた。

自分のすぐ後に 水飛沫と共に 何かが落ちてきて 

敵かもと構えたが、心配して 追ってくれた

三蔵だと解って 2人はとりあえず 岸が低くなって水から上がれるところまで 

流れて行く事にしたのだった。

岸がだんだん低くなり 森になった頃に、ようやく 水から上がることが出来た。

 どこか怪我していないか? 川の中で ぶつけたところは?」と

心配して くれる三蔵に「大丈夫です。怪我はありません。

ただ おっしゃる通り 落ちた時に川の中で

ちょっと ぶつけたみたいで ここが痛いです。」と 二の腕と足のすねを指した。

「そうか 後から見てやるから とりあえず 温まるか。」そう言って

2人は とにかく その辺の枝を拾い 火をおこすことにする。

しかし 三蔵のライターは 水に濡れたために 使えなかった。

「こんなとき リムジンが居てくれると いいんだが・・・。」

珍しく 三蔵が そんな事をつぶやいた。

しかし リムジンは 観音への連絡に が飛ばして留守だった。




「三蔵 邪道ですが 私が 火をおこします。」

は 印を結んで 何かを口の中で唱えると、

印を結んだ手を 拾ってきた木々に向けた。

ボッという音と共に 火が点いた。「今まで 隠していたのか?」

三蔵は 点いた火に 薪を足しながら、を見て 口元に笑みを乗せる。

「隠していた訳では ありませんよ。必要が無かっただけです。

やむを得ない場合しか力は使わないようにしています。

すぐに頼られても 困りますし、私がいなくなったときに 

何事もなく旅が続けられるためです。」

は 三蔵の心臓に悪そうな台詞を、こともなげに放った。

いつもなら 鼻で笑える三蔵もさっきが崖から落ちるのを見たばかりでは、

聞き流せる言葉ではない。

「おい 冗談が過ぎるぞ。」

「え? はい 申し訳ありません。」

口では 謝っているが、悪いとは思っていないの笑顔。




三蔵は焚き火のまわりの木に脱いで絞った法衣を掛けた。

黒のアンダーシャツも同様に脱いでしまった。

ブーツも脱ぐと水を払って逆さまにし乾かしている。

三蔵がふと見るとは濡れた衣類のままで火の側の石に座っている。

上の服だけでも脱げ、そのままだと風邪をひくぞ。」

しかし は動こうとはしない。

「ちっ、何をいまさら照れてやがる。

俺の前で隠した所で 今更仕方がねぇだろう。

が見たことのないところまで、俺はお前の身体を知っているんだぞ。

いいから 早く脱げ!」

三蔵の言葉に の全身がほてって染まったのが わかった。

(あぁもう何でこいつはこれほどまでに俺を悩ませるんだ。

ここじゃ 抱けねぇじゃねぇか、畜生!)




三蔵の言葉に はようやく上着を脱いで河ですすぎ、よく絞ると木の枝に掛けた。

靴も同様に 身体から離す。

濡れた髪を絞り 束ねていた紐を解くと 乾くようにほぐしている。

その艶めいた行為は、酷く扇情的に見える。

濡れている衣類は身体に張り付き、下着の線と色を三蔵に見せている。

胸の頂 腰のくびれ 足の付け根辺りが 三蔵の視線を誘っては 悩ませる。

本人は まだ それに気付いていないので 隠そうともしていない。

裸身の方が まだ ましだと思えるほどだ。

ついさっきまでは 隠す必要などないモノだと言っておきながら、

いまさら 見えないようにしろとは 言えない三蔵。

見ない様にしたいのだが それは三蔵の本能が許さない。

愛する女の美しい肢体から 目を逸らせることが出来るわけがない。

三蔵にとっては 頭を抱えたくなる様な状況だった。





暫くすると 焚き火の煙で 場所を特定したのか、

八戒達の乗るジープの音が 聞こえてきた。

あいつらが来れば この苦しい状況から 脱出出来ると

ほっと胸をなでおろした三蔵だったが、

のこの姿を 見せるわけにはいかない。

半乾きの自分の法衣を 枝からとると、の身体に掛ける。

「私は大丈夫ですから、三蔵が着て下さい。

もうすぐ八戒達が来れば 着替えもあるでしょうし・・・・。」

濡れた髪が 張り付いた頬で 優しく微笑んでいる

思わず三蔵は 濡れた身体を抱き寄せた。

「馬鹿野郎! 着ているものが濡れてると 身体のラインが解るし 中身も透けてんだよ。

俺は かまわねぇが、悟浄辺りを喜ばしてどうする。

俺は自分のものを 分け与えるほど 寛容にできてねぇんだよ。」

その言葉に 自分を見下ろしたは 三蔵の言った意味を知る。



「三蔵ったら 今まで黙って見てたんですか。

ちょっと意地悪ですね。」

の抗議の声に そっぽを向いた三蔵の耳がわずかに赤い。

くすくすと笑うと から三蔵に抱き 頬に口付けを落とした。

「三蔵 ありがとうございます。

貴方のものですもの 大切に仕舞っておきますね。」

そう言って 法衣の前をきちんと合わせ 近づいてくるジープの到着を待った。
 









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